Saturday, July 9, 2016

「前年同期比で減益なので、対策が必要」という考えはリスクを理解していない

社会ではさまざまな資料で前年同期比(あるいは前年比)といった形で業績の議論が展開される。要は前年同期比で変わらずか増えていればよくて、減っていれば悪いという、単純な話である。少し別の形で出てくる場合は、前年をベースに組み立てた目標値に対して高いとか低いという話になる。いずれにせよ、何かの基準と比べて、高い・低いという議論する訳である。

これを定量評価だと思っているとしたらとても危ない考え方だ。他の記事にも書いているが、リスクというのはダウンサイドのことではない。リスクというのは振れ幅のことである。そして、ボラティリティというのは、測定可能なリスクでとらえきれない振れ幅のテールのことである。振れ幅であるリスクに対しては適切なリターンが出ているかどうか、という観点で評価し、ボラティリティについてはヘッジすることによって事業継続に支障がないようにリスクを移転することになる。

さて、ここで隔年で赤字を出すが、その次の年に黒字を出している事業Aと、毎年ぎりぎりで黒字の事業Bがあったとする。前年比で評価を行うと、事業Aの担当者は隔年で上司から「なぜ今年は赤字なんだ、去年はあんなに黒字を出していたじゃないか」と詰められ、事業Bの担当者は隔年で、「お前は事業Aが苦しい年でも確実に黒字を出して良くやっている」と褒められるわけだ(あるいは、「今年は事業Aの調子がいいのに、事業Bは相変わらず利益率が低いのだ」と言われる)。

しかし、事業Aが事業Bと比べて本当に劣っているのか。対前年で比較することで、良い悪いという結論を出してよいのだろうか。例えば、5年平均で見たリターンを比べれば、変動はあっても事業Aのほうが事業Bよりも累積利益が大きいということがあるだろう。ところが、仮に対前年評価ばかりを行っていると、事業Aの担当者は赤字を最小化しようとすることに注力し、トータルリターンを最小化することさえありうる。

一例として、事業Aの担当者が単年赤字を防ぐために、さまざまな前払いやヘッジを導入することが考えられる。ところが、計測可能なリスクの範囲内では、前払いやヘッジといった政策は、単に手数料分をカウンターパーティにかすめ取られるだけで、トータルリターンを下げる効能しかない(リスクを理解していない関係者の気持ちをなだめることも大きな効能なのだが。上司、経営者だけでなく、時には投資家も理解していない)。しかしながら、事業Aの担当者個人としては、赤字になりがちだった事業を建て直したという評価を得るだろう。

一方で、累積黒字が大きいからといって、単純に事業Aが事業Bに対して優れているというわけでもない。話が戻るが、リターンは常に取っているリスクと対応して評価されるものである。仮に、事業Aの累積黒字が事業Bのものより大きい場合であっても、リスクが大きいならば事業Aが優れているといえない。

会社全体の事業を各事業と同等の収益を生む証券のポートフォリオであると見立てて、そのポートフォリオのリスクを最小化しながらリターンを最大化することであると考える。そうすると、各証券にあたる事業のリスク・リターンプロファイルは、Security Market Lineを上回るか、下回るかで評価されることになる。すなわち、マーケットに対するベータを計算し、それに対応するリターンを返しているかどうかが評価基準となるわけだ。なお、ベータはリターンの相関係数であるから、まず各事業に使用する資産の額が明確でなければならない(すなわち、事業別B/Sを導入していないとまともなリスクとリターンの評価さえできないということになる)。

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