Thursday, April 14, 2016

「配当を増やして株主還元します。」と言いながら株主の利益を毀損することができる

株主を重視した経営をすべきだという主張自体は資本主義に基づくならば間違いではないと思うのですが、その流れで配当を増やすべきだといった主張がされることがあります。あるいは「増配し株主還元を強化する」、「物いう株主が株主への還元を要求したため配当を増やす」、「配当利回りが高く株主にしっかり還元している」といった主張は良く目にするものです。

しかし、配当を増やすことは株主に還元することになるのでしょうか。

まず、なぜ株主に利益が還元されるのか、株主が利益の分配を要求できるのかということですが、これは簡単で、会社は株主の所有物だからです。会社の存在意義が株主に金銭的利益を還元するだけかといったら決してそんなことはないのですが、自分の持ち物から発生した利益について所有権を主張するのは当然のことでしょう。簡単な例でいえば、銀行に預金したときに、その利息を銀行員が持って行ってしまったら、おかしいと思うでしょう。あるいは、自分が家を建てようとして貯めていた資金を、他人にすべて貸してしまって、50年後にそのまま額面で返してくれればいいよ、といえるかというと、よほど余裕のある人でもない限り不可能でしょう。株主は自己資金を会社に投資しているわけですから、持ち分に応じて利益を還元されるのは当然のことなのです。

それでは、配当とは何でしょうか。事業活動の結果、売上が発生し、一方で経費が発生し、その差額として利益が得られます。会社が事業を拡大する場合は、その利益を使って新たに工場を建設したり、商品の仕入れを増やしたり、あるいは人を雇い入れるわけです。そして、利益の一部を株主に金銭的に支払うものを配当と呼んでいるわけです。したがって、配当の原資は利益であるということになります。

ここで、同じ事業を営む二つの会社があったとして、会社Aは利益をすべて配当し、会社Bは無配であったとします。どちらの会社の価値が大きいでしょうか。これは、会社に成長の機械があるかどうかによります。仮に会社Aも会社Bも事業を成長させる機会が十分にあり、資金さえ手当てできれば業績がどんどん伸びるとしましょう。そうすると、会社Aは利益を配当で使ってしまうため、株主には毎年、金銭が支払われるもののいつまでたっても会社の規模は大きくなりません。一方で、会社Bの株主は無配ですから、何も金銭がもらえないのですが、会社の規模はどんどんと大きくなっていくわけです。

では会社Aの株主と会社Bの株主はどちらが得をするのでしょうか。配当だけを比べると、明らかに会社Aの株主が得をしているように思われます。無配の会社Bの株主はいつまでたっても金銭的な見返りは得られません。ところが、どちらの株主も株を売ろうとするとどうなるでしょうか。会社Aの規模は株を購入したときと変わっていないわけですから、株価も同じになります。一方、会社Bは配当をせず成長を追求してきたため、10倍の規模になっていたとしましょう。株価の根源的な価値はキャッシュフローを割り引いたものですから、利益が10倍になれば、株価も10倍になるわけです。したがって、会社Bの株主は配当からは一銭も得られなかったにも関わらず、10倍の値段で売却し大きな利益を得ることができます。

このように、株主の利益というのは配当によるもの(インカムゲイン)と売買取引によるもの(キャピタルゲイン)に分けられ、一見すると配当は分かりやすい還元なのですが、必ずしも配当が株主にとって得とは限らないわけです。成長の機会が豊富にある会社であれば、配当を受けるよりは株価が10倍、100倍となるほうが株主にとっては大きな利益となるため、伸び盛りの会社が配当を増やすようであれば、株主還元を怠っている、ということになるわけです(配当といった安易で分かりやすい手段で投資家をだまそうとしている。本業をしっかり伸ばしてキャピタルゲインでより大きな株主還元をすべき…もちろん、騙されるようなナイーブな判断をしてしまう投資家の問題なのですが。)。

一方で、一通りの急成長を終え、成熟してきた事業であれば、利益を再投資するような機会は少なくなるため、配当をしなければ社内に現金が蓄積していくわけです。もちろん、蓄積した現金を金融商品や他の会社の株式に投資することはできるのですが、株主からすれば自分の手で同じことが出来るわけですから、余った現金を会社の自由にさせておくのではなく配当として還元せよ、と要求することになるわけです。もっとも、余剰現金の還元方法には配当ではなく自社株買いという還元方法もあり、ここはまた別の議論が必要です。配当を好む株主は多いようですが、実は自社株買いと比べて株主に損をさせている場合もありうるためです。

また、余剰資金かどうか、という判断は簡単ではありません。例えば、近年話題になるものとして、ある程度成功したIT企業が投資育成事業をしているといったケースがあります。その投資が本当にその企業でなければ実行できないものなのか、という点は投資家からすると良く考える必要があります。人脈やノウハウといったその企業独自の強みがあって投資をしているというならば、余剰資金とは言えないですが、仮に特に関連性が強いわけでもない事業に投資しているようであれば、それは形を変えた余剰資金というわけで、株主に還元されるべきものでしょう。

冒頭の話に戻ると、株主は自分の投資に対して利益の分け前を要求できるわけですが、配当という形が株主の利益になるとは限らないのです。事業の成長機会の有無によって無配のほうが株主の利益になる場合もあるわけで、余剰資金を株主に還元する、のは正しいですが、配当を増やすことそれ自体が株主に還元することにはなりません。

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