Tuesday, April 12, 2016

「赤字に転落したため事業撤退」という単純な論理ではない

会社の業績は良いときもあれば悪いときもあるのですが、往々にして見かけるの
は「赤字に転落したため…」と始まり、「給与カット」、「規模縮小」、「事業撤退」といった言動や報道です。

しかしこれ、本当に前半と後半が正しくつながっているのでしょうか。

そもそも、なぜ業績が黒字になったり赤字になったりするのか、ですが、企業の利益は売上から必要な費用をすべて引いたものですから、売上が下がるか、または、費用が上がれば赤字になるわけです。すべての企業は売上を増やしつつ、コストは出来るだけ抑えることで利益率を向上することを狙って日々活動しているわけです。販売している商品の市場が急激に縮小してしまえば、売上が下がるでしょうし、原油価格など材料費が高騰すれば費用が上がるわけです。
では、赤字はその事業の状態が悪いことを意味しているかというと、実はそうとも限らないのです。同じ赤字であっても、「そもそも事業リスクとして存在する赤字」と「事業環境の変化によって生じた構造的な赤字」では意味合いがまったく異なってきます。構造的な赤字については、判断は容易で、赤字を継続している事業と黒字を継続している事業があれば、赤字事業を復活させる何らかの価値がない限りは黒字事業を選択するのは当然でしょう。一方で、事業リスクとしての赤字についてはもう少し慎重に考える必要があります。

例えば、同じ商品Aを販売する会社Xと会社Yがあったとして、会社Xや自社所有のビルや工場で事業展開し、会社Yはすべて短期のリースで調達していたと仮定しましょう。どちらの会社が赤字になりやすいかというと会社Xになります。市場が縮小したり変化した場合に、自社所有物件の固定費の負担があるため会社Xはその費用を負担し続けることになりますが、会社Yは不要な物件の契約を解除すれば費用負担が身軽になり、市場が縮小しても赤字には転落しません。
それでは、会社Xの経営方法が間違っているのかというと、決してそんなことはなく、例えば売上が想定通りに拡大している場合は、自社所有物件を生かして事業を素早く拡大し、変動費が低いため、会社Yと比べて拡大局面での黒字は大きくなると考えられます。

ここで冒頭の「赤字に転落したため…」の話に戻るわけですが、たとえ同じ商品Aを販売する会社であっても、そのコスト構造によって収益の振れ方は全く変わってくるのであって、赤字になったこと自体は事業に問題があるかどうかの判断基準にはなりえないのです。X社がある年に赤字だったからといって廃業するのが正しい選択かというと、そんなことはなく、次の年にY社と比較して大きな黒字を挙げ、2年間のトータルとしてみたらX社のほうが業績が良いということが普通にあり得るわけです。
同様に、事業リスクの異なる複数の事業や製品を抱えている会社があったとして、短期の業績を見て赤字であるから事業を廃止するということは、実は会社の事業価値から考えると間違った判断であることがわかります。短期の業績評価により事業の成否を判断することを続けていると、会社にはより事業リスクの少ない事業が残っていくため、好ましいことのようにも思えます。しかしながら、リスクが低いということは当然リターンも低いわけですし、不確実性が少ないということは参入障壁は低いわけです。仮に現状では黒字安定な事業であっても、他社参入により将来的には競争が厳しくなり、赤字に転落、そのときにはリスクを取れる人材も能力も社内には残っていないということになりかねません。

逆の視点から考えると「今年度は予想外に突然、大きな黒字を挙げた」といった事業が本当に優れた事業であって、従業員の努力の結果であるのかというと注意して分析する必要があります。大きな黒字が突然上がるような事業構造であるということは、同時に突然赤字になるような事業リスクを内包している可能性を示しているわけで、冷静に考えるならば「黒字なのでボーナス増額だ!皆でお祝いだ!飲むぞー!」なんてことをやっている場合ではないのです(少なくとも本社部門としては)。それよりも、黒字が突然増えるようなリスクの高い事業を自社が抱えていける状態なのかを早急に調査する必要があります。極端に言うならば「急激に業績が回復したため、(当社が事業として継続するにはリスクが高すぎることが判明したので、)事業をリストラする(そして、今なら見かけは良いので他社は高値で買うだろう)」といった判断もありうるでしょう。

「赤字である」ということ自体は事業の成否を判断する基準にはならず、その赤字が本来的な事業リスクによるものなのか、それとも構造的なものかを冷静に判断することが重要といえるでしょう。したがって、赤字が事業リスクによるものであるのに、「赤字に転落したため…給与カット・規模縮小・事業撤退」といったナイーブな判断をしていると、将来的な業績を崩壊させることになりかねません。経営方針、財務的な余力など総合的に判断して、どこまでのリスクを取れるのかを考え、それに合わせて事業を売却する、あるいは事業のコスト構造を変えリスクを自社のとれる範囲に合わせるといった展開がまともな経営方針といえるでしょう。

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